肩関節疾患(肩の痛み、全てに対応)
“肩の痛みに関して”
人間の肩関節は可動性が良い(あらゆる方向に動く)ため、特に捻った・ぶつけたなどの怪我がなくても、痛みが出やすい関節です。
肩が痛い時には様々な病気が考えられますが、大きく以下の3つに分けられます。
- “加齢性変化(腱板断裂や変形性関節症)”
- “肩関節周囲炎(50肩)”
- “外傷(脱臼や骨折など)”

加齢性変化(腱板断裂や変形性関節症)
ホームページをご覧になっていただいた皆様 “腱板断裂” という病名はご存じでしょうか。
医療が進歩した現代でも、中高年の方の肩の痛みは“40肩、50肩”で片付けられてしまうケースが多々あります。
中高年の方の肩の痛みには、大きく分けて2つの原因があります。
- 1つは“腱板断裂”(スジ、インナーマッスルの断裂)
- もう1つが“肩関節周囲炎 ≓ いわゆる50肩”です
“腱板断裂”は自然には治りません。根治には手術、症状を和らげるためにはリハビリ、注射・投薬があります。放置していると進行し、修復不可能な状態(変形性肩関節症)となってしまいます。
“肩関節周囲炎 ≓ いわゆる50肩”は自然に治ります(治る可能性が高いです)。
“腱板断裂”の症状は「肩を動かす時に痛い」、「夜間寝る時に痛い」です。
“肩関節周囲炎 ≓ いわゆる50肩”の症状は 「肩が動かない」、「夜間寝る時に痛い」
“腱板断裂”の原因は以下の2つです
①腱板の加齢性変化
- 骨と骨の間にはさまれているという解剖学的特徴。
- 日常生活動作の中で、“すり切れて”断裂が起きる。
②外傷(けが)
- 手を付いて転んだ 等
“肩関節周囲炎”の原因、一言でいうと“不明”です。

腱板断裂
“動かす時に痛い(腱板断裂)”と“動かない(肩関節周囲炎)”は本来違う症状ですが、腱板断裂で痛みがある状態が長期間続くと徐々に肩の動きが悪くなり、肩が“動かなく”なり、肩関節周囲炎(50肩)の症状と似てきてしまいます。そのため、区別が付きづらくなります。
当院常勤医(部長:水谷将大)は肩関節専門医であり、“腱板断裂”の啓蒙活動に取り組んでおります。
- 自然には治らない肩の痛み ≓ 腱板断裂
- 50肩と誤解されている肩の痛み ≓ 腱板断裂
腱板断裂の診断はMRIが必要です。
- 最近ではエコー検査もありますが、診断精度はやや落ちます。
- ペースメーカーや閉所恐怖症でMRIが撮れない方は、肩関節専門医による触診である程度診断できます。
- 特に原因無く肩が痛くなり、御自身で“40肩、50肩”だと思っている
- 医療機関や整骨院を受診し、レントゲンでは異常なく“40肩”、“50肩”と言われた
という方の中に、実際には“腱板断裂”であったというケースはかなり多く見られます。
少々古いデータ(2006年)ですが、秋田県の山村で行われた住民検診での腱板断裂の割合です。
50歳台:10.7% 60歳台:15.2% 70歳台:26.5% 80歳台:36.6%
これはあくまでも“住民検診”の結果であり、“肩が痛い方”を対象とした割合ではありません。
50歳台でも、10人に1人以上の確率で腱板断裂の方がいることが判明しています。
初期の腱板断裂であれば、低侵襲の内視鏡(関節鏡)手術で根治が目指せます。

関節鏡による腱板断裂手術(イラスト)

関節鏡による腱板断裂手術(写真)
進行した場合は根治が目指せないため、リバースショルダー(人工肩関節)が適応となります。

リバースショルダー(人工肩関節)
リバースショルダーは執刀するに当たって日本整形外科学会からのライセンスが必要です。
本邦では2013年から導入と比較的新しい手術であり、ライセンスを持つ医師はごく少数です。
肩関節周囲炎(いわゆる50肩)
肩関節は日常生活において脱臼が起こらないよう、肩甲骨と上腕骨頭の間には肩甲上腕靱帯が存在します。
人間の肩関節は、日常生活において様々な動きが必要となります。そのため、肩甲上腕靱帯には適度な“ゆるさ”が必要です。因みに、ケガなどで過度にゆるくなってしまった状態が“脱臼”です。
この、“適度にゆるい”肩甲上腕靱帯が、原因不明に固くなってしまった状態が“肩関節周囲炎≓50肩”です。
医療が進歩した現代でも、この原因ははっきりとは分かっていません。一説には糖尿病との関連も言われていますが、糖尿病もお持ちで無い方でも肩関節周囲炎になる方は多くいらっしゃいます。
靱帯が固くなると、肩関節が外から締め付けられた様な状態となります。血圧を測る際、強く締め付けられた腕が痛くなるように、締め付けられた肩関節には痛みが生じ、また、もちろん、動かしにくくもなります。
そして、不思議な事に、固くなった靱帯は概ね半年~1年間をかけて、徐々にゆるんできます。まるで氷が徐々に溶けて水になるようなイメージなので、英語では肩関節周囲炎(50肩)はfrozen shoulder(凍った肩)という病名です。
固くなった靱帯の根本的な治療は“時間”しかありません。ただし、痛みを和らげる手段としては、注射、鎮痛剤の内服やリハビリなどがあります。
多くの方は自然に靱帯がゆるんでくるのですが、1割くらいの方は中々自然には靱帯が緩まず、手術の適応(肩関節鏡を用いた靱帯剥離)となることもあります。
“肩が動かない” “肩が痛い”という辛い病気である肩関節周囲炎(50肩)の症状を少しでも和らげるためには、肩関節を専門にする医師による正確な診察・診断と、治療のマネジメントが必要です。
肩関節前方脱臼
- ラグビーやサッカーなど、激しいスポーツにおいて、手を付いて転んだり、相手との接触で肩関節を包む靱帯(肩甲上腕靱帯)が断裂し、肩関節が脱臼(外れる)します。
- 上記の様に、10-30歳台の激しいスポーツをされる方に好発します。
- 御高齢の方の場合は、転倒などの軽微な外傷(ケガ)でも起こります。
- 若年者ほど再発(反復性肩関節脱臼)率が高く、手術による根治的治療が必要になります。
- 御高齢の方の場合は、3週間ほどの固定で、再発率を大幅に下げることが出来ます。
当院では肩関節前方脱臼に対して、術後再発率を限りなく0に近づける術式(DAFF法)を採用しております。
*一般的な方法(single row法)では術後再脱臼率は5~10%ほどです。また、コンタクトスポーツ(ラグビーやサッカー等、相手とぶつかるスポーツ)選手では更に高い再発率となっています。

肩関節前方脱臼に対するDAFF法
上腕骨近位端骨折
- 御高齢の方が転倒した際に手を付いて受傷されるケースが多いです。
- 通常の骨折の場合は、随内釘(ボルト)かプレートを用いて、骨接合術を行います。
- 骨折部は粉砕しており、骨接合術が困難な場合はリバースショルダー(人工肩関節)手術が適応となります。
- リバースショルダーは執刀するに当たって日本整形外科学会からのライセンスが必要です。本邦では2013年から導入と比較的新しい手術であり、ライセンスを持つ医師はごく少数です。

リバースショルダー(人工肩関節)